自由ディラックスピノル場

{\cal L} = \bar{\psi} (i\gamma \cdot \partial -m) \psi量子化しよう.
\frac{\partial {\cal L}}{\partial \dot{ \psi }} = i\psi^\dagger\frac{\partial {\cal L}}{\partial \dot{ \psi^\dagger }} = 0なので,
この系には,\phi_1 = \pi_\psi - i\psi^\dagger = 0\phi_2 = \pi_{\psi^\dagger} = 0という拘束条件が存在する.
ハミルトニアン{\cal H} = \pi_\psi {\dot \psi} + \pi_{\psi^\dagger} {\dot \psi^\dagger} - {\cal L} = i \bar{\psi} \gamma\cdot\nabla \psi + m {\bar \psi}\psiと書くことができる.ただし,この表式には拘束条件の分だけ不定性がある.
 \{ \pi_\psi-i\psi^\dagger , \pi_{\psi^\dagger} \}_P = -i
 C \equiv \left(\begin{array}{ll} \{\phi_1 ,\phi_1 \}_P & \{\phi_1 ,\phi_2 \}_P \\ \{\phi_2 ,\phi_1 \}_P & \{\phi_2 ,\phi_2 \}_P \\ \end{array}\right)   =   \left(\begin{array}{ll} 0 & -i \\ i & 0 \\ \end{array}\right)
これを用いてディラック括弧を定義できる. \{A,B\}_D = \{A,B\}_P - \{A,\phi_i\}_P C^{-1}_{ij} \{\phi_j,B\}_P
よって, \{ \psi(x), \psi^\dagger(y) \} = -i\delta^{(3)}(x-y)

自発的対称性の破れ

今回のノーベル賞に関連して,学科の連中と議論になっているのが「物理が専門ではない人間に,いかにして自発的対称性の破れを解説するか」という問題である.
これは実に難しい.自発的対称性の破れというのはかなり抽象的な話であり,厳密な定義や議論は数式を用いるほかないからだ.
さらに,完全に理解しているかと自問してみると,そこもちょっと自信がないような気がしてくる.
しかし,「基礎科学に携わる人間は,自分が学んでいる分野がいかに意義深いものか,そして魅力的であるかを目をキラキラさせながら語る義務を負っている」という信条を自分は持っているので,できるだけ分かりやすく正確さを失わないような説明ができたらいいなと,頭をひねっている.

ベクトル粒子

質量0のベクトル粒子(スピン1)が存在するとゲージ対称性が必要となる.weinbergの5章,8章のはなし.
これはまともなローレンツ変換にしたがう場が構成できないため.

質量のあるベクトル粒子はどうか.これは高エネルギーの振る舞いがユニタリ性を壊す(あるいは,くりこみ不可能)ことになるのだが,
このベクトル粒子は自発的に破れたゲージ対称性のゲージボゾンであるならば,ゲージ対称性によりユニタリ性は保護される.


つまり,ベクトル粒子があるならばゲージ対称性が必要になるということ.ベクトル粒子は世話の焼けるやつだ,ということになる.

BRST対称性

ローレンツ共変なゲージでゲージ理論量子化しようとすると負ノルムの状態があらわれてしまって困る.
このような状態があらわれてしまうと,遷移振幅を遷移確率と解釈することができなくなってしまう.
ということで,このような非物理的状態はあらわれないことをいいたい.


まず,ハミルトニアンがエルミートであるとする.H=H^\dagger
さらに,BRST対称性,すなわちベキゼロの保存量があることを要求する.QH-HQ=0,Q^2=0


ハミルトニアンがエルミートであることから,S行列はユニタリであることが分かる.SS^\dagger=S^\dagger S =1
始状態や終状態は,保存量Qの線形表現であることが知られている.Qは冪ゼロなので,既約表現は1重項と2重項のみである.
1重項はQ|\phi \rangle=0をみたし,Q|\chi\rangleとは書けないものである.
2重項は|\phi_1\rangle,|\phi_2\rangleで張られる.ただし,Q|\phi_1\rangle = |\phi_2\rangle.この時,\langle \phi_2 |\phi_2 \rangle = 0であることがすぐ分かる.内積を持つ状態が少なくともひとつはあるはずなので,\langle \chi_1 |\phi_2\rangle =1とする.
このとき,|\chi_2 \rangle \equiv Q|\chi_1 \rangle \neq 0を定義できて,\langle \chi_2 | \phi_1 \rangle = 1であることがわかる.
このようにして,2重項は必ずペアを作っていることがわかる.これはBRST4重項と呼ばれる.




全状態空間Vに対し,物理的状態空間をV_{{\rm phys}} \equiv {\rm Ker}Qで定義する.
このとき,QS-SQであることから,S V_{{\rm phys}} = S^\dagger V_{{\rm phys}} = V_{{\rm phys}}が分かり,V_{{\rm phys}}は遷移で不変である.
Sの作用によりV_{{\rm phys}}から状態がはみ出ないので,V_{{\rm phys}}上にSの作用を限った演算子{\tilde S}_{{\rm phys}}を定義できる.
このとき,Sのユニタリ性より,{\tilde S}_{{\rm phys}}もユニタリ.


V_{{\rm phys}}には,BRST1重項に属する状態と4重項に属する状態がある.
BRST1重項は物理的なものに対応するので,ノルムの正定値性を仮定する.
この時,4重項の状態はノルムが0の状態でしか現れないことがBRST不変性より示される.
つまり,V_{{\rm phys}}は半正定値性をみたす.

零ノルムの部分空間 V_0 \equiv \{ |\chi\rangle | |chi\rangle \in V_{{\rm phys}},\langle \chi | \chi \rangle = 0 \}を定義する.
S V_{{\rm phys}} = S^\dagger V_{{\rm phys}} = V_{{\rm phys}}から,V_{{\rm phys}}だから,S V_0 = S^\dagger V_0 = V_0が分かり,V_0Sの作用で不変.
よって,零ノルム部分を潰したH_{{\rm phys}} \equiv V_{{\rm phys}} / V_0の上でS行列S_{{\rm phys}}が矛盾無く定義でき,さらにユニタリであることが分かる.