5.1

量子力学と特殊相対論をドッキングさせることを考える.
最初に量子力学を用意しておく.量子力学の基本的な枠組みは,状態がヒルベルト空間の射線であらわされること.観測量がエルミート演算子で表されること.測定してある状態を見出す確率が内積の絶対値の二乗になること.
ここに特殊相対論,つまりローレンツ不変性を接木する.ローレンツ変換はユニタリ演算子であらわされるが,その生成子は運動量演算子角運動量演算子ハミルトニアン,ブースト演算子である.ローレンツ不変性はS演算子とこれらの生成子が可換である,ということと同値.摂動論の言葉で焼きなおすと,ハミルトニアン密度{\cal H}(x)スカラーで,space-likeな2点に関しては可換でなければいけない.これは3章で議論された話.
さらに,物理学の理論が満たさなければいけない重要な性質が,クラスター分解性である.これは,遠く離れた場所で起こっていることは気にしなくて良いという性質だ.地球上の実験室の結果は,アンドロメダ星雲で何が起こっているかには(ほとんど)影響されない.この性質を議論するには,物理状態を真空に生成演算子を作用させたものとみなして,演算子を生成・消滅演算子で書き表すのが便利.この時の演算子の係数に制限を課すことで,クラスター分解性をみたすようにすることができる.これは4章で議論された話.


以上の性質を満たすようにハミルトニアン密度を構成しなければいけない,というのが5章の始めの話.
スカラーであるハミルトニアン密度を構成するのには,生成場,消滅場を用いる.これだけで,クラスター分解性を勝手に満たすようになる.space-likeな2点に関して可換にするためには,生成場と消滅場を組み合わせた場の演算子を定義することが必要となる.場の演算子を定義したあと,ハミルトニアンが何か量子数を保存するようなものであるとすると,全ての量子数の符号が反対である反粒子が存在することが自然となる.peskinの2章で因果律反粒子を必要とする,と言っていたのはこのことであったのか.